整備解説書によると、外径は φ39.75~であるが、取れたバルブシートの外径をノギスで計測してみた。1/20で読んでも、いいところ φ39.00 程度であった。これでは仮に解説書どおりの部品であったとしたら締め代がない。もしくはシートの圧入不良だったのか。バルブシートの密着不良があれば熱伝導性がわるくなり、バルブ周りの熱負荷を増大させることになる。異常の発端がシートなのかバルブなのかは特定はできない。今回ばらしたエンジンにはバルブシートリングが入っていた。基本的にJH4をはじめ、オリジナルジープのエンジンではバルブシートリングが使用されいないらしいときいたいたのだが。古いジープ(L4 H4 JH4エンジン)は、有鉛ガソリン時代のエンジンで、鋳鉄ブロックに直接排気バルブシートが形成されている。無鉛ガソリンを使用すると、有鉛による保護作用がなくなり、バルブシートが磨耗するらしい。その対策としてはバルブシートリングを入れるか、有鉛のかわりとなるバルブシート保護の燃料添加剤を使用することのようである。
そもそも、無鉛ガソリンは公害防止のためであるものの、エンジンハード側に弊害があった。有鉛ガソリンでは燃焼生成物に鉛化合物が形成され、それがバルブシート面の保護潤滑の役目する。しかし、無鉛化ではその作用が無くなるためバルブ、バルブシートの磨耗するバルブリセッション(Valve Recession)がおこるという。バルブリセッションは高温のガスが通過する排気側のバルブシート、バルブの接触面において、凝着磨耗という現象で接触面が磨耗していくのである。磨耗するとバルブクリアランスが詰まり、バルブの着座不良、最終的にガスの吹き抜けやバルブの破損にいたる。無鉛化の対策として、自動車メーカ側は耐熱性、耐磨耗性のある焼結合金でバルブシートリングを使用するようになった。当時、すでに市場にでていたジープ用エンジンにも無鉛対策キットなるものがあったようであるが、生産ラインで実施されたか、整備工場関係で実施されたのかは定かではない。
そもそも、有鉛ガソリンは高圧縮比エンジンで問題になるノッキングを防止するアンチノック剤として、オクタン価をあげる目的で四エチル鉛が添加したものである。一方で有鉛のため排気ガスによる鉛中毒公害が懸念されたことによい、ガソリンの無鉛化が1972年ごろから実施された。また、無鉛ハイオクの登場で高オクタン価のために有鉛ガソリンは必要なくなったのである。ジープの場合 オリジナルL4エンジンで圧縮比は6.48であり H4,JH4でも前期6.9/後期7.4と低圧縮比であるために、アンチノック性はさほど要求する必要もなく、燃焼温度もそれほど高いものでもないと思う。バルブシート保護作用なんて、高圧縮、高回転のスポーツ系エンジンならともかく、低圧縮、低回転型のJH4では効果と影響はいかほどのものだろうか。
当方のエンジンの場合は、排気バルブシート周りに溶接補修がされており、過去にバルブシート部の破損で、シートリングが入れられたのではないかと思う。これまでシートリングが入っていることを確認しているわけではなかったが、無鉛ガソリンを使用していた。特にバルブシート保護なる添加剤もつかっていなかった。結果としてはバルブシートが入っていたが、バルブの吹き抜けがおこったわけである。バルブシートリングの圧入不良が原因だったかもしれない。が、その他に気になることとして、排気バルブにこびりついた白い硬い堆積物が多いことである。そんなおり、とある情報筋より、白い付着物は有鉛ガソリンによる化合物である場合もあると、下記のような情報を入手した。
有鉛燃料による弊害
・ピストンピン摺動不良 ・EXバルブ、燃焼室面~ステムにも付着してステムシールよりのオイルダウンを誘発 ・燃焼室面には鉛+カーボン付着が著しい 。
燃焼室内での鉛の変化について
・4エチル鉛はアンチノック剤として作用,すべて酸化鉛に変化する。(気体)
・気相中の酸化鉛は塩化水素,臭化水素のガソリン掃気剤中の塩素・臭素と反応、塩化鉛,臭化鉛に変化する。
・臭化鉛塩化鉛は蒸気圧が高く、融点も低く、大部分は排出されるが一部が燃焼室内に付着する。
・付着した塩化鉛,臭化鉛は高温下で酸素,硫黄酸化物と反応、酸化鉛・硫酸鉛を生成。
・高温であるほどその変化割合は大きい。これらは堆積物となる。
・有鉛ガソリンは無鉛に比べて重量当たりの発熱量は若干高い傾向にある。(2~3%)
(Bigsstone Bureau of Investigation -- BBI X-files )
で、どうする?! 独りでガレージ。先週ばらしたエンジンの残骸、亀裂が入ったブロックをフレームに載せたまま動かぬジープを前にうなだれ気分は倍増。さあ、どうしようかと重い気分のまま、ブロックの亀裂具合を見た。亀裂浸透剤を用いて他にダメージがないか、特にバルブシートがとれてしまったNo.4エギゾースト周り。割れが発生したために、バルブシートが取れたかもしれないので入念にチェックする。水穴周りの亀裂は特に深そうではなかった。No.4排気ポート周りも亀裂はないようである。下の右端の画像であるが、No.2 No.3排気バルブシートであるが、溶接により補修がされていた。その間の水穴にクラック。ひょっとすると水穴のクラックは、この溶接補修によるひずみによって生じた残留応力が原因ではないだろうかと頭をよぎる。溶接補修までして使用されていたのかと、これぞジープの使われ方と感動したいところだが、気分はさらにどうするのだと落ち込む。
このハリケーンエンジンはこの薄暗いガレージからは復活することなく、ここを最終の墓場として消えることになるのか。心の中では「そんなことは嫌だ。復活させて、またここから出してやりたい。」と思う。しかし、現実はどうするか?そしてできるのか?である。この日はこの他に異常なところがないか、できるかぎり調べて、このエンジンの状況を把握することにした。そして何をすればよいのか整理して考えることにした。 その日の夕陽はきれいだったが、気分は重い。
修理するとなると・・・ ・ブロックの補修とバルブシートの入れ替えの修理
ブロック修理には専用の加工機械と技術が必要である。私はもっていないので依頼するしかない。インターネットで調べてみた。内燃機加工会社が数多くあり、鋳鉄ブロック等の溶接補修もできるとのことであった。気になるのは修理費用であるが、私がコンタクトを取った会社は見積もりをできる限りの精度でご提示していただいた。心積もりしていた予算範囲内で、修理はなんとかいけそうである。修理の要であるバルブシートをどうするかであるが、JH4専用品は生産中止であった。が乗用車エンジンで比較的サイズが近く、追加工により使用できそうなものが見つかったので、それを調達することにした。
・オーバーホール
ブロックの加工依頼をするにしても、費用を抑えるには、自分で全バラしてブロックを持ち込むことである。そのためには、エンジンの分解が必要である。ジープを置いているガレージは電気水道もなく、分解作業にはつらいができないことはない。そこまで分解するのであれば、他のエンジンの症状として、エンジン停止時のランオン、オイル消費が多い、燃費が悪いなどのエンジン劣化の症状があった。ベアリングやシール類などの交換も含めてオーバーホールしておくのが作業効率と修理の結果を無駄にしないためにも必要である。やるならオーバホールも含めてやることにした。そのためには部品をそろえておく必要がある。
・部品
三菱純正はエンジンの部品は生産中止の欠品もあり、なかなかそろえるのも難航しそうである。それにしても価格が高い。一方、JH4のふるさとアメリカでは、部品の供給は四駆ショップや部品メーカが行っていた。JH4の原型H4やL4のエンジン部品でさえ、オーバ-ホールキットなるものから、バルブスプリング、ボルト一本まで供給しているようである。少し円安の状況であるが、送料等をいれても日本でそろえるよよりは安くなりそうである。中にはシリンダブロックまで部品カタログに掲載している業者があり、それを入手することも考えたが、このブロックを修理して使えるのなら、使いたいところである。アメリカの業者からもその程度の亀裂なら溶接補修でいけるだろうとコメントを頂いた。
いっちょ やってみるか・・・・
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